天気予報

 僕は、自分の目を疑った。
 明日の天気予報は、本当に、曇りだった。
「ほうら、私の言ったとおりでしょう。賭けは私の勝ちです」
 にやにやと勝ち誇ったような笑みを浮かべて、ホームレスの男は僕に千円を要求した。
 僕が公園のベンチで一休みしているとき、その男は急に話し掛けてきて、賭けをしようと言った。賭けの内容は、明日の天気予報を言い当てること。
「何か、イカサマをしたんじゃないでしょうね。天気予報が曇りなんて、普通だったら考えられない……」
「失礼な。あの気象予報士と私は、まったく関わりがない。彼と私とではまったく立場が違うのだ。いやそもそも、関わりがあったとしても、天気予報の結果を私がどうにかできるはずないじゃないですか」
「それはそうですが。何か、細工をして……」
「だったら、今から調べてみてもいい。ホームレスの誇りにかけて、そんなものは無いと断言できる! 私たちは、決してそのような汚い手を使って金を手に入れたりはしない。さあ、どうしました。さっさと予報士にお願いして、調べさせてもらおうじゃありませんか」
「い、いや、いいです。分かりましたよ。いかさまはありません。千円払いますよ」
 男の剣幕に押されて、僕はお金を渡すと、逃げるようにベンチを立った。こんな大人のくだらない争いに気象予報士を巻き込むのも恥ずかったし、これ以上この男に関わりたくもなかった。それでも公園を出る前に、僕は一度だけ芝生の上にいる子供を見やった。
 その子供は、片足でぴょんぴょんと跳ねながら、自分が蹴った靴を取りに向かっていた。
 靴は、公園の芝生の上で、九十度の角度で器用に立っていた。


コメントをどうぞ

あなたのメールアドレスが公開されることはありません。