孤独の0

 私は数字の0です。女の子です。数字の世界では、私は一番えらいです。女王様です。私のいうことだったら、みんな何でも聞いてくれます。
 私の身の回りのことは、執事の1が全てやってくれます。私が人差し指を動かせば、お菓子の山が用意され、中指を動かせば、最新のおもちゃが運ばれます。富も栄光も手に入れた私は、他の数字がうらやむようなぜいたくな日々を送っていました。
 でも、私は悲しいです。本当は権力なんて欲しくありませんでした。私もみんなと同じように遊びたいのです。
 遊び相手は、1に頼めばすぐに用意されたけど、みんなびくびくしながら私と接します。私のことを怖がっているのです。だから、友達と呼べるような相手は私にはいません。それが、とても悲しいです。
 私には仕事があります。悪いことをした数字をこの世から消すことです。それは、正しいことだと教わりました。そして、それができるのは私しかいないと。
 だから、本当はそんなことしたくなかったけど、私は仕事を続けています。それが正しいことなら、拒むことはできません。私がこの世界で果たす義務として、私が存在する運命として受け入れるしかないのです。
 今日も、仕事があります。私のもとに、罪を犯した数字の35が連れて来られました。彼は、片思いの7にフラれたことに逆上して、彼女と無理やり引き算して心中をはかったそうです。
 7から35を引けば、マイナスになります。マイナスになった数字は負の世界へ落ちます。負の世界は地獄の世界だと、正の数字からは怖れられています。私は0なのでどちらの世界も知っていますが、たしかに負の数字はみんな乱暴で、野蛮です。でも、そんな負の数字からも恐がられている私は、いったいどれだけ怪物なんでしょう。私はただの女の子です。
 でも、いまはそんなことを考えている場合ではありません。失敗に終わったとはいえ、他の数字と無理やり引き算することは、重大な罪です。かわいそうですが、35には消えてもらうしかありません。
 私は玉座を降りながら、感情を消しました。処刑を楽に行うための方法です。余計な同情心があってはこの仕事はできません。いままで何度となく処刑を繰り返してきて、気がついた答えでした。割り切るしかないと。
 すると、そこで予期しないことが起きました。私が35に手を下そうとした瞬間、彼は警備員の制止を振り切って私に襲いかかったのです。どうやって隠し持っていたのでしょう。彼の右手には、マイナスの演算子が握られていました。
 これで引き算をされてしまえば、私も彼も-35となって負の世界に飛んでしまいます。けれど、私は少しも動じませんでした。なぜなら、彼と同じように、私の右手には×の演算子が握られていたからです。
 動いたのは彼が先でしたが、結果は私の勝ちでした。引き算よりも、かけ算のほうが速いのです。
 0の私と乗算をされた35は、一瞬にしてこの世からいなくなりました。計算の結果、無になったのです。数字の世界で、私以外に0が存在しないのは、神様の気まぐれでしょうか。おかげで、私に友達は一人もいません。
 そして、今日の仕事は、いつもどおり終わりました。
 私は×を持ったまま、執事の1へ視線を送りました。彼は、私と演算子を交互に見て身を震わせていましたが、私の人差し指が曲げられていることに気付くと、すぐに部屋を飛び出してお菓子の準備を始めました。
 私に手に入らないものは何もありません。
 けれど、私が0であるかぎり、私は永遠に孤独な数字です。


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