秘密の道具

 薄暗い取調室で、刑事の怒声が響きわたっていた。
「さあ、いい加減に口を割ったらどうだ! お前が殺したんだろう」
 刑事は拳で机を叩き、鬼のような形相で詰め寄る。しかし殺人事件の容疑が掛けられている被疑者は、一貫して沈黙を続けていた。
「お前が容疑を認めない理由は分かる。殺人事件が起きたときの現場は密室だった。針の糸を通す透き間もないような、完璧な密室だ。常識的に考えれば、あの状況で殺人が行われたとは信じがたい。だから、刑を確定させることは無理だと思って、いつまでも自白しないんだろう?」
 死体が発見された室内には窓や換気扇といったものがなく、唯一、外と通じるドアには内側からしっかりと鍵が掛けられていた。誰もが不可能犯罪だと頭を抱え、捜査開始時は事件の迷宮入りは必至だと思わせるほどだった。
「しかし、それは逆効果だったな。現場が完璧な密室であればあるほど、犯罪の不可能性が増せば増すほど、お前の嫌疑は濃くなるんだ」
 と、刑事が言うと、無表情だった被疑者の顔に初めて翳りが生まれた。
「しかもお前は、重大なミスを犯している。密室の部屋から抜け出す方法と、お前が犯人であることを示した道具が、現場に残されていたんだよ」
 すると、刑事は部下に耳打ちをして、ある証拠品を持ってこさせた。それは細長いプラスチックで大きく円を描いた、玩具のような物体だった。その証拠品を突きつけられた被疑者の顔はみるみるうちに青くなる。刑事はここぞとばかりに声を荒げて、被疑者に迫った。
「どうだ、これでもまだ口を割らないつもりか! この通り抜けフープを使って外に出れることは証明ずみだ。こんな道具を持っている者は、世界を探してもお前しかいないんだよ! いい加減に罪を認めたらどうだ、ドラ○もん」


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