騒音

 カーン、カーン、カーン。
 乾いた音が、静かな森の中にやかましく響きわたる。
 ある木こりの男が、森で木を倒していた。仕事は順調に進んでいた。が、ひょんなことから、男は手を滑らせて斧を近くの湖に落としてしまった。どうしたものかと頭を抱えていると、湖の底から、二つの斧を抱えた女神が現れた。
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか。それとも普通の斧ですか?」
 男は光り輝く黄金を見つめて、即座に金の斧だと答えた。
「あなたは嘘をつきましたね。……しかし、この金の斧を差し上げましょう」
「よ、よろしいんですか」
「ええ。嘘をついてまで黄金が欲しいのであれば、貧しい木こりなどをしていては余計に心がすさんでしまいます。ならば裕福な暮らしをしたほうが、心は癒されるでしょう。森を出て、町で幸せな生活を送ってください」
 と言われて女神から金の斧を受け取ると、男は嬉しそうに森を去っていった。その様子を、ため息を付きながら見送る女神。
「やれやれ、これでようやく眠れる……。まったく木こりの野郎ほど、昼寝に邪魔な奴はいないぜ」
 ぶつぶつと愚痴りながら女神は湖の底へ戻ると、また布団を頭からかぶって眠り始めた。
 ベッドのそばには、木こりを追い払うための金の斧が何十本と積まれていた。


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